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2018.11.16
ドラマのなかの税金①
先日の夜のこと、何気なくテレビをつけたら、資格をはく奪された元女性弁護士が主人公という連ドラをやっていました。
私が観た時には、すでにドラマは終盤・・・、どうやら「莫大な財産(200億円相当)を持つオーナー会社の高齢の会長(以下「会長」)に恨みを持つ若いホステス女性(以下「若い女性」)が彼に近づき、婚姻届けを出すことにより全財産を奪い取ろうとしたところ、その婚姻届けは実は会長が亡くなった後に出されたものであり無効。
若い女性のたくらみは失敗・・・。ところが、実はこの会長は若い女性が自分を恨んでいることを知っており、その恨みのもととなった出来事を後悔していた。そこでその出来事に関わる、とある小さな会社に全財産を遺贈することを遺言していた」という話のようでした。
弁護士チームの結論は、「結果的には法人税は払うけれど、法人税よりもずっと高額な相続税を免れたのだから、良かった」ということでした。
現実にこんなことが起こったら、本当に「良かった」ということで納まるのでしょうか。
そこで、今回はこのストーリーをもとに、税金について考えてみたいと思います。
①配偶者控除をお忘れなく
たしかに法人が納付する法人税など(事業税や住民税を含みます)のトータルの税率(実効税率)は、35%程度です。最高税率55%の法人税に比べたら、かなり低くなっています。
その点では、確かに「良かった」のでしょう。
しかし、実際の課税関係は、そんな簡単なものではありません。
もし婚姻が有効に成立していたら若い女性は配偶者ですから、「相続する財産のうち法定相続分については税金を払わなくてよい」という配偶者控除(配偶者の税額軽減)を受けることができました。
仮に200億円相当の財産が現預金だけだったとしたら、
法人税は約70億円、
相続税は約108億円、
会長には息子さんがいたようなので、配偶者の法定相続分は1/2
そこで約4億円は配偶者控除となって、
納付する相続税は、最終的には約54億円となります。
やっぱり、結婚しておけば良かったのに・・・ということになります。
②所得税をお忘れなく
先ほど「仮に200億円相当の財産が現預金だけだったら」と申し上げましたが、現実には財産のすべてが献金ということはほとんどなく、お金持ちほど不動産や有価証券など、いわゆる含み益(キャピタルゲイン)を生むような財産をたくさん持っています。
相続税(や贈与税)は、「個人から個人へ相続・遺贈や贈与によって財産が移転した時」に、課税される税金です。本来は、個人から個人に財産が移転した時には、その財産についてキャピタルゲインが生じていれば譲渡所得税を課税することになっているのですが、所得税法では、「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては、所得税を課さない」という規定を設けていますので、個人が相続、遺贈、贈与によって財産を譲り受ける限り、税金は相続税だけでおしまいということになります。
ところがこの規定は、法人に対する遺贈には適用されません。所得税法では、法人に対してキャピタルゲインを生じさせるような財産を遺贈した時には、「時価による譲渡とみなして、遺贈をした故人に所得税を課税する」という別の規定を設けています。
亡くなった人に譲渡所得税なんて(なんのこっちゃ?)と思われるかもしれませんが、残念ながらこれが現実です。税率は、不動産ならば所有期間に応じて15%か30%(+復興所得税)、上場株などの一般的な有価証券でしたら15%(+復興所得税)です。そして住民税が課税されることも忘れてはなりません。この税金の納付手続きは、亡くなってから4か月以内に「準確定申告」により行います。
そしてこのドラマのように、「財産まるごと会社に遺贈」という「包括遺贈」の場合、税金の納付は財産を遺贈された会社が行います。
会社にとっては、手続きも含めて大きな負担となります。
③法人税の課税ベースは相続税の場合より高くなる
さらに追い打ちをかけるような事実をもう一つ・・・。
相続税の世界では、「財産評価基本通達」という財産の評価ルールを用いて財産の評価額(課税ベース)を決定するのですが、この方法による評価額は通常の取引時価より概ね低くなるように決められています。
一方、法人税や所得税の世界では、原則としてこの方法は使わず、「売買時価」によって課税ベースを決定します。
ですので、たとえば財産のなかに売却時価1億円の土地があったとしたら、相続税(最高税率55%)の課税ベースは8,000万円程度、法人税(実効税率35%)の課税ベースは変わらず1億円です。
話はちょっとそれますが、数年前に相続税対策として「タワマンブーム」というのが起こりました。
高層のタワーマンションの場合、この評価のギャップが大変大きくて、1億円で売買できるマンションでも相続税の評価としては3000万円くらいにしかならないのです。なので、1億円のだぶついたキャッシュがあったら、そのまま相続を迎えるよりもタワーマンションを買って評価を落とした方がいいじゃないか!というのがタワマンによる相続税対策です。
これをドラマのストーリーに当てはめて考えれば、若い女性がタワマンを相続したら、3000万円をベースに相続税が計算されるけれど(最高税率55%で1,650万円の税金)、法人に遺贈すると、1億円の受贈益に対して約35%の税金(3,500万円)+(1億円-マンションの取得費)x15%か30%の所得税+住民税ということになります。
やっぱり結婚しておくべきでしたね。法人への遺贈は、本当に面倒です。
④おまけ・・・会長はトラブルの種を遺していった
会長はどうやら自筆証書遺言で遺言を遺していたようです。自筆証書遺言では少しでも誤りがあると無効となります。
当然ながら、遺言は公正証書で行うべきでしょう。立派な会社の会長のようなのに、とてもおかしな話です。
それに、会長には息子さんがいます。いくら会長が「全財産を遺贈するぞ」と頑張っても、息子さんには法定相続分の1/2について遺留分減殺請求権があります。遺留分減殺請求権は申し立てを行えば、権利として成立します。息子さんにとっては縁もゆかりもない会社に相続財産が渡ったわけですから、請求権を行使することは必至でしょう。これに対して、会長は遺言で手当てしておくべきでした。
さらに、相続財産のなかに会長ご自身の会社の株は含まれていないのでしょうか?議決権は?株価は? いろいろ問題がありそうな話しです。
現実に、このドラマのような話が起こったら本当に大変なことでしょう。
法人への遺贈は、慎重にご検討下さい。