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2017.03.15
あらたに始まるセルフメディケーション税制の留意点
平成29年1月1日から「セルフメディケーション税制」が導入されました。この制度は、自分や自分と同じお財布で生活する家族のために「スイッチOTC医薬品」を購入し、年間の購入総額が1万2千円を超える場合、その超える部分の金額(8万8千円が上限)を、所得の金額から控除するというものです。
WHOの定義によれば、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」という意味です。つまり、少し体調が悪いくらいなら、病院に行って保険診療を受けて国のお金を使うのではなく、自分で薬を購入して治してください。そうすれば、その購入費用には税金をかけませんよというのが、この税制の主旨です。
ただしこの制度には、いくつかの留意点がありますので、以下それらを整理してご紹介します。
1.制度の適用を受ける本人(申告をする人)は、申告対象期間中(1月から12月の間)に、「健康の保持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組」をしなければなりません。
まず、制度の適用を受ける前提として、「一定の取り組み」に該当する検診等を受けなければなりません。具体的には以下の検査等を受診します。
・健康保険組合や市町村国保などが行う人間ドックやその他の検診
・市町村が健康増進事業として行う健康診査
*市町村が自治体の予算で住民サービスとして行う健康診査は対象になりません。
・インフルエンザワクチンの予防接種や定期接種
・勤務先が行う定期健診
・いわゆるメタボ検診や特定保健指導
・市町村が実施するがん検診
また、「一定の取組」には、全額自己負担により任意に受診する健康診査は含まれません。
2.1.の取組を行ったことを証明する書類を取得し、その原本を申告の際に提出しなければなりません。
提出する書類は、受けた検診等が、「一定の取組」に該当すること、受診者の氏名や受診日、検診等を行った保険者、事業者、市町村又は医療機関等の名称がわかるものでなければなりません。一般的には、領収書や結果通知書を提出することになりますが、結果通知書の内容のうち、検査結果の部分は黒塗りにしたり切り取ったりしても構いません。
3.すべての医薬品が対象なわけではありません。
この制度の目的は、何かしらの症状があるときに、病院等で受診をする代わりに、買い薬で治療してもらうことです。したがって、医師によって処方される医療用医薬品から転用された医薬品である「スイッチOTC医薬品」のみが、制度の適用対象になります。
スイッチOTC医薬品は厚生労働省のHPに掲載されているほか、薬局においては、商品の識別マークや店頭表示、レシートの記載によって判別できるようにされています。
4.領収書の保存・添付を行わなければなりません。
申告の際には、領収書の添付が必要です。また添付する領収書は、セルフメディケーション税制の対象となるOTC医薬品であることが判別できるものでなければなりません。
通信販売などで購入した場合には、プリンターで領収書を出力することもあると思います。しかし、プリンター出力の領収書は「原本」とは認められず、あらためて通信販売会社などに証明書類の発行を依頼しなければならないという煩わしさがあります。
控除の対象となる金額は、その医薬品の購入のために実際に支払った金額です。具体的には消費税込みの金額であり、割引の対象であったものは割引後の金額になりますので、ご注意ください。
5.医療費控除との併用はできません。
セルフメディケーション税制の導入により、これまで医療費控除の対象に満たなかった10万円以下の医薬品の支出が、1~4に示した要件のもとに、所得控除の対象になります。
そこで、セルフメディケーション税制の控除上限が10万円なのだから、10万円を超えた部分は医療費控除の対象となるのでは、と思われる方もいるでしょう。しかし残念ながらこの制度と医療費控除との併用はできず、どちらかを選択して適用することとされています。
セルフメディケーション税制の適用となるのは、スイッチOTC医薬品の購入のみです。一方、医療費控除の対象は、治療等に必要な医薬品代はもとより、医師等による診察の対価、入院費、治療を目的とする鍼灸等の施術の対価など、多岐にわたります。ですから年間10万円の医療費の支出があった年には、支払った医療費の内容を精査して、セルフメディケーション税制と医療費控除のどちらを選択するほうが得かを、判断する必要が生じます。